世界の音楽レベル
リファレンスの音源を世界各国から受け取る。その殆どは、それぞれに個性は有るにせよ、非常に高いレベルを保っている。
今日はモロッコから音源を受け取り、そのレベルの高さに驚いた故に、ここに文面を残したいと思いました。 世界中から送られてくる音源を受け取り、そこにミキシングやマスタリングの工程を経て送り返すという業務が、私たちのもとには多数届きます。ONLINEで送られてきますので、いきなり受注するということが殆です。事前に何かしら知らされていたりするケースもありますが、それはレコード会社がバッチリと付いてスケジュール管理をしているときくらいのもので、インディーズや独立系のアーティストたちの仕事というものは、かなり突発的な形で取り引きが始まります。 国も様々で、言語も様々です。聴いたことのないような言葉は日常茶飯事で、欧米は勿論ですが、アフリカやアジアの奥地からもファイルが届きます。ドイツ語でまくしたてるような早口のヒップホップ、優雅に女性の声が美しいスロバキア語のバラード、熱帯を思わせる楽曲から発せられる、力強いメッセージ色の有るアフリカ現地の言葉など、送られてくる楽曲はありとあらゆる言葉で歌われ、そしてそれぞれに強い個性と思想を感じさせる楽曲構成をしています。 こうした環境の中で育まれる経験というものは、昨今のヒット曲が英語圏を中心にしているとは言え、また別の尺度から音楽を捉えることも可能となります。勿論英語圏からの受注もありますが、現代の音楽発祥の地と言えばヨーロッパであり、そのヨーロッパでヒット曲を飛ばすことはエンジニアやプロデューサーにとっては1つのステータスとなっています。僕が担当した楽曲で、直近の参加作品でヒットしたものと言えば、先々週発表されたドイツのヒップホップグループ、Die Denkazの新曲が僅か2週間で100万回の再生を記録しヒットしたのをはじめ、スロバキアとチェコの合作である Eimy and Justice の楽曲も今年の3月ころにスマッシュヒットとなりました。 そして思うこととしては、様々な国、地域の作品に参加するにしても、そのクォリティは驚くほど高いものが殆どです。やはりマスタリングという最終工程を依頼するのですから、有る一定のクォリティにあることは大前提なのでしょうが、最低条件として、世界でヒットできる要素というものは各々に持ち合わせていると感じています。楽曲の構成は勿論ですが、サウンドという面に関してはその殆どが素晴らしいクォリティを保っています。 例えばアフリカから送られてきたミキシング後のファイルは、カナダ人エンジニアがレコーディングを行ったとのことがメールに書いてありましたが、その一部が気に入らないので何とか良い音にマスタリング出来るか?というものでした。3曲送られてきた楽曲を分析する限り、非常によくレコーディング・ミキシングされており、下から上までの音については大凡バランスのとり方なども問題ないと感じました。加えて、音の扱い方や世界観についても、彼らが演出したいことがよく伝わってくる作品に仕上げられています。 また今日受け取ったモロッコからの音源は、以前うちのスタジオにインターンに来たいと申し出のあった青年からの依頼で、僕のマスタリングを真似して何とか音を作ってみたという趣旨のことが書かれていました。それも結構レベル高いんですよね・・・しっかりと作られていて、音質もかなりのクォリティです。1つ感じられたものとしては、プラグインを中心にしているので、それが故に平面的な音の扱いになってしまっていることと、音の熱量が足りなくなってしまったが故のマイナス面はありましたが、そこを僕に頼んできたわけですから、やはり判断という意味でも非常にレベルの高いことをやろうとしています。 簡単に言えば、既に音というレベルで考えたときには、国境がなくなってきているようにも思えます。クリアであることや美しくも太い低音を作り上げることは、もはや常識中の常識であり、そこへ更に自らの個性を強く打ち出したり、新世代の音を盛り込めるか否かで、世界は音質を競っています。 ここへ日本はどういう事になっているかと言うと、世界の舞台からは一人随分と違うところにポツンと立っているような感覚です。個性的と言うよりは、何というか・・・やはりちょっと異質なことは確かです。ワイドに音を作ろうとする世界に対して、日本は真ん中に音を集め、太く美しい低音を世界は求めますが、日本は殆低音をカットしてしまいます。 僕がアメリカ・イギリスからのみ受注を行い、この意見を述べているのだとすると偏った部分があるかもしれませんが、先程書きましたように地域関係なく音源は送られてきます。Facebookで繋がりのある国内のクライアントなどは、 『アフリカの曲って、どういうものなのか想像もつかない』 ということで、少し預かっている楽曲を聴かせると 『レベル高いですね』 という言葉が帰ってきます。 実際に一聴きすると、そのクォリティの高さに驚く人は多いはずです。機材も教育も情報も、何もかもが日本よりも劣勢の彼らが、何故日本よりも高度な楽曲を制作し、高度な音を作り上げているのかを考えると、必要なものが何なのかを考える良い機会になるのではないでしょうか。 欧米には、歴史も機材も情報も環境も違うという言い訳はできますが、もはや後進国からも音楽において遅れを取り始めている国内です。単に金銭だけあれば、良いものが作れるということではないことが証明された今、70億人の全世界とどういう形で競争し、更には切磋琢磨することでより良いモノづくりを考えなければいけない時期に差し掛かっています。 世界が広いことは分かっていても、そのレベルの高さというものは中々実感することが出来ません。僕自身はモロッコからの受注で、世界の何処かには既に自分の音を真似て来る人がいる事実を知り、今のままでは直ぐに追い付かれるという危機感を持っています。次の一手、その先にまた自らの可能性を追い求めなければ、世界の強力なパワーに飲み込まれてしまうと感じています。 世界の音楽レベルは、日本人が想像している以上に高いと思います。そして今や第三世界までもが力をつけ、既に抜かれているような状況です。後進国の人間たちのハングリー精神とパワーに、見事に負けてしまったということかと思います。今一度見直し、世界と競争できる体制を、国内でも整えていくことが大切ではないでしょうか。
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