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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

世界のアーティストともに

世界のアーティストともに・・・なぜ世界に挑むのか?

音楽制作・ポストプロダクションで日々仕事を共にするセフィ・カーメル。ET、ハリーポッターなど映画音楽を手掛けるとともに、フィル・コリンズ、BBキング、デイビッド・ボーイなどともアレンジャー、演奏者、エンジニアとして参加するなど、マルチに才能を発揮するロンドンの鬼才。

世界のアーティスト達とともに歩むことは、容易いことではありません。世界のトップは、思いもよらないほどの高いレベルで成立しており、その拘り、背景にある深い造詣、芸術性の確立など、日本では想像もつかないレベルで構築されています。また、その引き出し、多彩さという意味でも別次元であり、実際にハリウッド映画の音楽を、身近に感じる日本人というのはどれほど居るでしょうか?『映画でスター・ウォーズの楽曲を聴いて好きになった』ですとか『ロード・オブ・ザ・リングの曲は、子供の頃の思い出だ』という方はいらっしゃるでしょう。しかし、それは視聴者として誰もがハリウッド映画を見ることのできる環境にあるのであり、今回の論点とは立ち位置が異なります。 そうではなく、今回の視点はハリウッドと世界を感動させる音楽制作を共にするというものであり、ハリウッドやロンドンの懐に入り込み、何を考え何を思い、何を共感しステップを踏むのか?といった、業務を共にすることを前提とするという意味で、ハリウッド音楽を身近に感じている日本人が居るか?という考え方です。先に述べたように、世界のトップは想像することさえも難しいレベルで推移しています。 写真のセフィの場合、当方がある案件でプロダクション業務全体を受注した折に、彼へアクセスし作曲を依頼したところ、一回目の仕事で感性が共鳴しその後も取り引きが続きました。彼自身もミキシング・マスタリングを行うことが出来ますが、こちら側へロンドンサイドから音源の再構築を依頼されることもあります。また、お互いの仕事における進展を報告しあい、より良い作品を作れるよう情報共有を行うこともしばしばです。それも、やはりお互いが世界の最高峰で仕事をしているからこそ成り立つ関係であり、どちらかのモチベーションや能力が低ければ、成り立たない関係性であることは確かです。 またセフィは非常に気難しいところがあり、音の構築法において気に入らないことがあれば、とことん追求してい来るというところがあります。追求というより攻撃にも近いところがあり、世界のトップの世界で仕事を続けるというのは、ある意味では 『常に自らを否定され続け、しかしそれでも信じる自らの才能に掛ける人々の集まる場所』 と定義できると思っています。認められたり、褒められることを期待するような場ではありません。その賞賛の言葉は、高い報酬で支払われるのであって、言葉に賞賛は表されなくても次の仕事へつながるのか?若しくは、無難に次が無いといった対応に出られるかのどちらかです。 さらに、能力不足の仕事をすれば、鬼気迫る迫力で叱責され、またそのために発生する共有されている人間関係の悪化や、世界広しどトップで仕事を行っている人たちは極小である以上、悪い噂が広まることも否めません。こうした非常に窮屈とも言うべき世界の中で、尚トップの世界で仕事をし続けようとする精神姿勢というものは、どういった背景から来るものなのでしょうか?

ビリー・ジョエルのツアーの折に設置されたスタインウェイ・グランドピアノM型。ツアー用のスタインウェイピアノから、滞在先のホテルの音響までを担当した。本人の写真掲載はNG。

ビリー・ジョエルとの出会いは忘れられません。 高校生の頃からずっとファンだった彼と仕事を共にする、こんな夢物語に心を震わせて、現地へ出向いたことを今でも覚えています。多分な要素を含んだ日程的な調整を行い、私はホテルで彼の到着を待っていました。心躍るこの瞬間は、毎回自分がその段階に達する度に感じる、非常に強い充実感と達成感で満たされます。これ以上の喜びというものを私は知りません。 しかし、実際に初対面の折のビリー・ジョエルが取った行動というのは、全く感動的なものではありませんでした。 『Hello』 と入ってきたまでは良かったのですが、物凄く威圧感と厳しい表情を浮かべ、私のことなどはまるっきり無視の状態。コーディネーターが、一応私のことを紹介するも、 『Okay』 で終わってしまいました。自己紹介や彼のどんな曲が、どのように好きなのか?などなど、沢山の話を持ち込んでいたのですが、全部無駄かと思い始めた矢先、急にビリー・ジョエルがピアノに向かい歌い始めました。生で彼の声が聴けるという喜びとともに、こんなチャンスはないということで、彼に近寄り 『あのー、今日ピアノをブッキングし、お部屋も音を作り直したのですが、如何ですか?』 と話しかけたところ、 『Haha』 とだけ帰ってきてしまい、会話が続きません。どうしたら良いものか・・・何とか彼と会話を成立させたいのですが、あれ程のスーパースターになると、色々なことが過去にあったのかもしれません。人を自分に近づけることを嫌がる雰囲気がありました。それでもめげずに話しかけても、全く乗ってくる気配なし。。。しかし、彼が 『You are my home』 という曲を歌いだしたので、 『この曲を知っています。貴方がまだ無名の頃に、奥様にプレゼントした曲ですよね!』 という一言を掛けたところ、ビリー・ジョエルの顔が一気に緩んだのを思い出します。

『ああ、そうだよ。余り知られていない曲だけれど、君はエピソードまでよく知っているな』 といって打ち解けたことは、素晴らしい思い出として、今でも大切に私の心に残っています。またこの時期は、本格的に世界へ出ていくチャンスをうかがっていたので、自分のキャリアを大きく左右したのもまた事実です。この話を聞きつけた欧米のアーティストたちから、仕事の受注が相次ぎましたし、未だにこのキャリアを基にしてドイツやアメリカから音源制作の仕事を受注することがあります。

日々感じるものとして、こうした仕事を日常的に行うというのは、とてつもなく負担が大きことは確かです。常に緊張状態が続き、今日終わった大仕事は明日にも続き、そして来週来月、来年もブッキングされて行きます。そして新たな仕事の相談は、世界各国からのメールやFacebook経由で日々入ってきます。先日はアフリカのガーナで、国のイベントに使用される音源を制作しました。 こうした仕事を通して、正に世界では何が行なわれ、何を考え、そして何が必要とされているのかを肌身で感じることが出来ます。くわえて、どの次元であれば自分の実力が通用し、何をやるとダメとされるのかも、世界の常識とされるドライなビジネス感覚から明確に知ることが出来ます。 ”音”という世界で生きる私にとって、常に世界のエンターテイメントの先を見通し、音のトレンドを見定め、更にはヨーロッパメーカーと世界の音のトレンドをともに作り上げるという使命も果たさなくてはなりません。常に進化しつづけ、常に世界最先端の音を追求していく環境こそ、私にさらなる躍進と進化を与えてくれ、更なる高みを目指す大きな動機付けとなってくれます。 これは、世界一流の景色を見てきた人間ならではの精神状態と言えるかと思います。これこそが、向上心であり、成長であると信じています。 そして、常に世界で勝負し続け、最先端の更にその先を見通すことで、研ぎ澄ました感性は更に研がれ、日本では誰も見たことのない地平線の向こう側を見ることも出来ます。世界をリードするというこの感覚を、私は非常に大切に育んでいます。

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