今日は新たに建設される、プライベートホールの音のトータルコンサルティングで、軽井沢にお邪魔しています。設計プランから音場についてのお話し合いをさせて頂く中で、クレメンティスというギリシャ出身のロシアで活躍するCDを聴かせて頂きました。一聴きして、 『なんだこれは?』 という衝撃のサウンドで、ラモー作曲の演奏を繰り広げています。この21世紀に、全く新しい解釈をクラシック音楽にもたらしたという作品の1つと言うことが出来る、快心の一作です。スタジオワークをこなしている自分からしても、楽曲を限りなく現代風に解釈していることに留まらず、その思想の背景から来るサウンド・メイキングは、過激なほどに斬新です。 まずレコーディングでは、弦のスリリングな演奏を的確にキャプチャーするために、かなりのオンマイクで収録するとともに、管楽器もピストンの音が入ってしまうほどに、やはりオンマイク。歌もアンビエンスを重視した広がりというよりは、全面に押し出された楽音と、何とPANが激しく振られ、パートごとに明確に右と左がポジショニングされています。この時点で、こんなPOPSに通じるような理論のクラシック音源は聴いたことがありません。 そしてミキシング。先ずはコンプレッサーを使わなければ、絶対に表現しようのない音圧と太さが表現されています。しかも、各パートに対して、明確な音作りが積極的に行なわれており、所謂クラシック音楽、しかもチェンバロが入っているような宮廷音楽において、こんな音作りが行なわれるなどということは先ずありませんでした。 そしてマスタリング。僕が得意とする、EQをガンガン用いての音圧が表現されており、これはロックではありかもしれませんが、やはりクラシックでは使用しないテクニックのはずです。 こうした新ジャンルとでも言うべきクラシック音楽の解釈、そしてその思想に裏付けられたサウンドメイキングを、ヨーロッパの中でもかなり保守的というイメージを持つ、ロシアからリリースされていることがまた凄い。
そして、何と言っても美しい。
これは1つの解釈方法を用いて、音楽を進化ではなく深化させることで昇華した音源と言えるでしょう。1つの思想に対して、明確に思想の共有をプロデューサー、指揮者、音楽監督、レコーディングエンジニア、ミキシング・マスタリングエンジニアたちと根深い部分で出来ていなければ、絶対にこんな革新的な音源は制作できないはずです。こういう一面を見る時、ヨーロッパの分厚い文化と、斬新的な次世代のアイディアを融合させた、プラットフォーマーとしてのパワーを感じます。
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